フランク永井を知るために・01|『懐かしのフランク永井 シングル全集(1) 有楽町で逢いましょう 1956-1958』

  フランク永井の膨大なディスコグラフィを前に、何から聴き始めるか…… 迷うところですね。その人の音楽性によって、何が適しているかはさまざまです。

 全体像をつかみやすいのは、『懐かしのフランク永井 シングル全集』(2016)です。フランク永井のシングルA面216曲が、発売順に10枚のアルバムに収録されています。10枚それぞれに聴きがいがありますが、まずは「有楽町で逢いましょう」(1957)を収録した第1巻を、押さえておきたいところ。


 発売順にシングルA面23曲を収録。洋楽カバー・英語詞アリの「16トン」(1956;初のA面曲)に始まって……

「有楽町で逢いましょう」(1957)で大ブレイクし、ヒット曲を連発していく時期が収録されています。テーマ曲の映画化などにも次々と出演し、時の寵児となったころです。「西銀座駅前」(1958)は必聴の「ロッカバラード」です。「ABC…XYZ、これは俺らの口癖さ…」って、そんな口癖が自然と出たらかっこいいですよね。X「ワ〰イ」Zと、フランク永井のダンディーな低音が、いやが上にも決まっています。しかも洋風です。

 吉田正作曲によるヒットを中心に、
東京午前三時
夜霧の第二国道
有楽町で逢いましょう
西銀座駅前
 
 などなど、定番曲を数多く収録。

 他にもワタシ的には「東京ダークムーン」「悲しみよこんにちは」「夜霧の南京街」など、名曲多数の巻です。


「東京午前三時」や「西銀座駅前」もそうなんですが、フランク永井といえば「都会」、そして「夜霧」ですね。華やかで洗練された街に風を切りながらも、いつも孤独を感じているんです。

〽 恋は苦手の淋しがり屋、イカすじゃないか……

 というわけです。1960年代にさしかかるころ、そんな若者が東京に集まってきていたんでしょう。単なる孤高なかっこよさというよりも、その中にこそ人恋しさ、温かさ、優しさをたたえているのが、フランク永井の声なんです。


 この時期、フランク永井ヒット曲に一つの原型が生まれています。当然、『フランク永井 ベスト』(2004)などにもけっこう収録されているのですが、案外と後のステレオ再録版になっていたりして、聴いた印象がずいぶん違うんです。唯一配信されている普通のベスト盤がこれなのですが……今回紹介したシングル全集に収録された本家というかオリジナル(モノラル録音)から入った方が、後のバリエーションも楽しみやすくなるでしょう。

 シングル全集の第1巻で興味をもったら、ベストやコンピレーションを聴くのもよし、第2巻の「ラブ・レター」(1958)をはじめ、時代を追って続巻に進むのもよいでしょう。「WOMAN」(1982)などモダンなフランクを知りたければ、第10巻だけ先に聴くのもアリ。10巻それぞれに「君恋し」(1961;4巻)「公園の手品師」(1978;10巻)といった副題があり、どのディスクにもその時期を代表するヒット曲が収められています。

 このシングル全集は配信で聴くこともできますが、『コンプリート・シングル・コレクション』CD-BOX(2016)には、上記10枚に加えて特典DVDがついており、NHKが初期からの紅白歌合戦を含む貴重な映像を提供しています。ブックレットにも他ではあまり見たことのない写真や解説が載っています。気軽に聴ける配信にも、特典や思いが込められたフィジカルにも、それぞれの価値があります。



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