フランク永井を知るために・05|歌謡曲のカバー etc.

フランク永井による歌謡曲のカバー

 昭和のころは多くの歌手がそうだったと思いますが、フランク永井も歌謡曲・演歌のカバーを数多く出しています。「君恋し」(1961)や「あなたのすべてを」(1985)といった代表的なヒット曲も、カバーですね。長く歌い継がれてきた曲に、フランクならではの新しい魅力を吹き込んでいます。

 ここでは多様なカバー曲を広く見渡すことができる、配信盤『フランク永井が歌う 歌謡曲・演歌 Vol. 1』をご紹介します。……



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フランク永井が歌う 歌謡曲・演歌 Vol. 1


 このコンピレーション最初の2曲(「カチューシャの唄」「ウナ・セラ・ディ東京」)は、アルバム『いのち短し恋せよ少女』(1974)『恋心 フランク永井とともに』(1967)からの曲です。どちらも私の超・愛聴盤ですが、一貫したアレンジが加えられたコンセプト・アルバムとしての性格をもっており、改めてご紹介したいところです。

 フランク永井ご自身の持ち歌ももちろんですが、こういうスタンダードに定着した曲を歌うと、また改めてフランク永井の声の美しさ、完璧なスタイリッシュさが際立つ気がします。実は私のような世代は原曲を知らないことも多いのですが、フランクを通して、原曲の魅力も教えられる気がします。

 青江三奈のカバー「伊勢佐木町ブルース」(1974)では、吐息こそ他の人ですが(本人のも聴いてみたいところですが)、「ドゥビウィシャヴァ〰」ではいつものフランクを一歩踏み越えた激情、夜の妖しげな雰囲気が込められていて、貴重です。この「ヴァ〰〰」の威力がすごいんですが、それでもやっぱり、ぎりぎりのところで端正かつ洋風にまとめてくるのがニクいところなんですよね。

 こんなふうにカバー曲では、フランク永井も原曲も、新たな魅力が引き出されています。馴染みの名曲も、フランクが歌うとこんなふうになるんだ…!という驚きがあり、また、持ち歌とは違ったフランク永井の一面が味わえるのも、楽しみなところです。

 もうちょっと新しいカバーは、アルバム『WOMAN』(1982)に収録されています。山下達郎が書き下ろしたタイトル曲に、当時のカバー曲を加えたものですが、「心の色」に意外な重厚感が醸し出され、「メモリーグラス」の声ばかりでなく英語の発音もよかったり(dancing doll!)、そこに「氷雨」まで同居しているアルバムも他にないと思いますが、80年代を知る人にはたいへん馴染み深く楽しめると思います。これもまた、改めてご紹介したいアルバムです。

 他にも多くのカバーがあります。アルバム『誰よりも君を愛す フランク永井 吉田メロディーを唄う』(1969)では、吉田正作品を自家薬籠中のものとしています。

 まだ配信されていませんが、「上海帰りのリル」では、歌い出しから普段のフランクを超えた激しさがあり、心に訴えます。この曲は『フランク永井の世界』CD-BOX(2015)でCD化されましたが、さらなる発掘・復刻が期待されるところです。


フランク永井の多彩な活動

 まだ取り上げられていませんでしたが、他にも多彩な活動があります。

デュエット曲

 松尾和子とのデュエットは、彼女のデビュー作「東京ナイトクラブ」(1959)から始まり、『フランク永井 歌手生活30周年記念ライヴ』(1985)にまで続いています。DVDなどで手を取り見つめ合って歌う姿にも、長年の友情が感じられます。

「大阪もの」

 東京の夜を歌ってきたフランクですが、「こいさんのラブ・コール」(1958)に始まる「大阪もの」にもヒット曲が数々あります。「加茂川ブルース」(1968)は京都の歌ですが、これに通ずるテイストです。

映画出演

 今村昌平監督『西銀座駅前』(1958)をはじめとする出演映画も多数あります。ストーリーの鍵に触れる活躍や、シーンに合わせた歌の展開もあって、『君恋し』(1962)など、映画クオリティのビデオクリップのようです。

童謡

 日本レコード大賞歌唱賞「赤ちゃんは王様だ」(1963)など、童謡にも取り組んでいます。「ねむの木」(1962)のように童謡の域を超えたファンタジーの世界は、今も新しく感じられます。

演歌

 演歌のカバー曲も数々あります。洋風なイメージのあるフランクですが、70年代以降はご自身の曲にも演歌的アプローチが取り入れられています。

その他

 民謡、軍歌のカバー(反戦歌もあります)、落語にもチャレンジするなど、本当に幅広い活動があります。復帰前の沖縄と戦争体験に思いを馳せた「おきなわ」(1965;川内康範作詞・山下毅雄作曲)は、かなりの意欲作と言えるでしょう。

 私もまだ十分押さえられていないところですが、今後少しずつ取り上げていきたいと思います。


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